八幡野(やわたの)とアジサイ

 世界で最も注目されるガクアジサイの自生地が城ヶ崎海岸です。ここからいくつかのアジサイが日本だけでなく海外までも旅立ちました。その中でも、八幡野で発見された八重花はイズシリーズとも呼ばれています。これからも世界に旅立つアジサイが、まだまだ見つかると思います。
 最近になりアジサイがあちこちの庭で見受けられるようになりました。しかし、花屋さんで鉢を買い求めたようです。これからは地元のアジサイを植え、歩いていると自然に城ヶ崎のガクアジサイを見られるようにしたいですね!


八幡野・城ヶ崎海岸
ガクアジサイが咲くころはスカシユリもきれいで、7月になるとハマカンゾウも咲き始めます。
橋立の吊り橋近くでは、海岸にヤマユリが咲いていました。

八幡野(八幡野〜城ヶ崎海岸〜伊豆高原)
静岡県伊東市の南部に八幡野があり、天城連山の麓から海岸線までの、山有り海ありの景勝地です。海岸は城ヶ崎海岸と呼ばれ、昔は磯釣りのメッカでしたが、今は遊歩道が完備され、歩いているとのんびりと竿を出している釣り人が見られます。海岸植物も多く、四季折々に橙色や黄色の花を咲かせていますので、花好きにはもってこいの散策コースです。
山側は、伊豆高原と呼ばれる別荘地が続き、宿泊施設のほかに美術館・体験工房・ギャラリーなどが多く、人気のリゾート地となっています。
八幡野は、旧村落が八幡野、海岸線が城ヶ崎、戦後の分譲地が伊豆高原と呼ばれています。現在八幡野は伊豆高原や城ヶ崎の方が有名になり、肩身の狭い思いをしている名称ですが、1000年以上も続く村の名前なので、大切にしたいものです。


八幡野におけるアジサイの分布
八幡野では海岸にガクアジサイ、海岸より900m・海抜80mの山と畑の間及び海岸より2km・海抜200mの山と田んぼの間にガクとヤマアジサイとの自然交雑種と思われるアジサイが自生します。しかし、周囲の環境の変化により株数が激減しており、八幡野から消滅する心配があります。また、天城の近くでは、アマギアマチャが自生する可能性があります。赤沢に向かう旧国道沿いの崖(道を造るために傾斜地を削った場所)には、海岸からたねが飛んできたと見られるガクアジサイ(一部交雑種)がありますが、道が作られてからの新しい自生地でしょう。
 海岸のガクアジサイ  ガクアジサイに近い交雑種  アマギアマチャに近い交雑種  アマギアマチャに近い交雑種


城ヶ崎海岸<ガクアジサイ、ごく稀に自然交雑種>
城ヶ崎海岸で見られるアジサイは、ガクアジサイとよばれ海岸に自生しています。
ガクアジサイはハマアジサイとも呼ばれ、伊豆半島を中心に房総半島・神奈川県・伊豆諸島などの海岸近くに育ち、ヤマアジサイより大きく厚い葉・花を持ち、日光に強く、時により2.5メートルを越す高さまでなります。
城ヶ崎海岸に自生するガクアジサイの特徴は、花の色が濃く鮮やかなことです。また、大きさ・形の他にも八重咲きやテマリ咲き・絞り咲き等の多彩な変化を持ち合わせています。それだけに、育種家や収集家にとって貴重な保存すべき植物となってくるでしょう。
城ヶ崎海岸が約4千年前に形成されてより今日まで、それほど長い時間とは思えませんが、何がこれほど多彩なアジサイを作り上げたのでしょうか?
 丸弁  装飾花が多い  テマリ咲き(畑で咲かせた)  八重咲き(城ヶ崎)

海岸以外のガクアジサイ
ガクアジサイは一般に海岸に分布しています。しかし、海岸以外の場所でもそれを見ることがあります。陽の良く当たる墓地の脇・線路沿い・古い道路沿いなどです。

浮山の旧道沿い<ガクアジサイと交雑種>
赤沢に向かう旧国道(昭和8年開通)沿いの崖(道を造るために傾斜地を削った場所)には、海岸からたねが飛んできたと見られるガクアジサイと数株の自然交雑種が自生します。道が作られてからの新しい自生地でしょう。
 ガクアジサイ  ガクアジサイ  交雑種  

畑の周辺<交雑種>
海岸より900m・海抜80mの山と畑の間にガクとアマギアマチャの交雑種と思われるアジサイが自生します。しかし、周囲の畑が放置され、日が当たらなくなり株数が激減しており消滅する心配があります。

田んぼの周辺<交雑種>
間及び海岸より2km・海抜200mの山と田んぼの間にガクとアマギアマチャとの交雑種と思われるアジサイが自生します。10年ほど前には北側に5,6株と南側に10数株自生していたが、今は北側に1株、南側には数株のみに激減している。今後、周囲の環境の変化により消滅する可能性がある。
ガクアジサイに近い  ガクアジサイに近い  アマギアマチャに近い  アマギアマチャに近い


八幡野で発見・命名されたアジサイ

伊豆の華:ガクアジサイの八重咲き・細弁、日本・アメリカ等で販売されている。飯田岳美氏発見。自宅より犬の散歩で海岸を歩いた時に、遊歩道の脇で咲いている八重咲きのガクアジサイ(伊豆の華)を偶然に見つけ、枝を自宅に持ち帰る。その日の夕方、私が飯田氏の家の前を通ったときに、飯田久氏よりそれを見せられ、その後の「城ヶ崎」発見のきっかけとなりました。遊歩道の直ぐ横で、常緑樹の根元に樹高1m強の株が、少し離れた海側に同じ花の同じ大きさの株がと二株に分かれていました。海岸の崖の直ぐ上で、岩に腐葉土がたまったところですので、大きく育たないようです。
飯田岳美さんは国内外で活躍した動植物園のプロフェッショナル飯田久氏の長男、農大卒業後ベルギー・英国(キューガーデン)で研修、横浜にある英国連邦軍人墓地での勤務後、富山県立植物園の設立に尽力する。

城ヶ崎:ガクアジサイの八重咲き、日本・アメリカ等で一般的に普及している。平澤哲発見。伊豆の華の自生を確認するために、海岸を調査中に遊歩道の谷間、山側の数m入った場所で見つける。落葉樹の下なので2mを越す枝の少ない株が二つに分かれていた。発見後、2年間は周囲を下刈りしましたのでより大きく、元気でしたが、その後、近くの松が枯れ周囲の木が大きく育つことにより、日が差さなくなり、枯れてしまいました。

伊豆の華と城ヶ崎の命名、販売
伊豆の華と城ヶ崎の枝が、発見後直ぐに飯田久氏より御殿場農場と伊豆海洋公園に届けられました。御殿場農園からはそれ以前より八重咲きのガクアジサイを欲しいと飯田氏に話があったと聞いています。枝を送る前に、名前の件で相談があり、どちらかに城ヶ崎を入れてもらおうとのことで、了解しました。翌年には御殿場農園のカタログにより、大きい方を「城ヶ崎」、飯田岳美氏の小輪を「伊豆の華」と命名し販売を始めました。伊豆の華については、命名の際に飯田氏に相談があったかはわかりません。その後、各地で増殖され、園芸店で売られるようにねりました。伊豆海洋公園に届ける前には、飯田氏が私に大きい方は平澤が採取したとつたへておきますとのことで、それを了解しました。近年、伊豆海洋公園の中にあじさい苑を造り、あじさい祭りを開催していますが、伊豆の華と城ヶ崎とも発見者を元顧問の飯田久氏とうたっていました。確かに公園に持ち込んだのは飯田久氏なのですが、植物園としての正確な記録を残していないのでしょうか!
ヤマトアジサイ(古代紫):テマリ咲き、古くより庭で栽培されるアジサイに似る。平澤哲発見・山本武臣氏命名、日本あじさい協会会報第8号をご覧下さい。
コリンマレーアジサイ図鑑(2009年6月)、アジサイ百科(川島榮生著、2010年6月)に掲載
山本武臣氏は前日本アジサイ協会会長、アジサイ研究家、アジサイに関する著書多数。
城ヶ崎発見の次の年、遊歩道から浜へ降りる谷間で2mを越し頭の上で青色のテマリ咲き(ヤマトアジサイ)の花を沢山咲かせていました。2〜3メートル海側に同じ花、同じ大きさの株があり、それから数mのところには別の花と思われる少し小さな株のテマリ咲きが咲いていました。現在は、城ヶ崎と同様松くい虫の被害でクロマツが枯れた後、周囲のイヌビワやヤツデ等の木が大きくなり、ヤマトアジサイの姿は見えず、一番海側のテマリ咲きがかろうじて生きながらえている状況です。
平成21年より種苗会社から販売がされています。

ヤマトアジサイについては、故山本武臣氏より、城ヶ崎海岸で本当にテマリ咲きアジサイを見つけたのか、電話で問い合わせがありました。その時に、確実に自生しており、海岸の谷間に2メートルを超える大きな株が二つ並び、頭の上でたくさんのテマリ咲きの花を咲かせてみごとでした、との内容を話しました。また、伊豆の華・城ヶ崎の発見者についても質問があり、伊豆の華は飯田たけみさんが発見者でありその時の経緯を、城ヶ崎は私ですと伝えました。最後に、飯田たけみさんの名前の漢字がわからなかったので、飯田さんの電話番号を伝え、確認してくださいとのことで終わりました。後日、一関観光協会発行の「日本のアジサイ」に飯田岳美氏が発見との記載がありましたので、電話で漢字の確認をしたものと思われます。
ちょうどアジサイの開花期にお電話をいただき、花を見たいとのことでしたので、我が家で開花した枝をお送りし、確認していただきました。
磯笛(アメリカではShamroch):ガクアジサイの八重咲き、アメリカで販売されている。平澤哲発見・日本名は平澤哲(2009年)、英名はCorinne Mallet命名
城ヶ崎と伊豆の華との中間の花型、より深い色、後半に形が崩れにくい。
日本あじさい協会会報第22号(2009年9月)、アジサイ百科(川島榮生著、2010年6月)に掲載

Corinne Malletさんはフランスのアジサイ研究家、広大な庭園に見本園を開設している。
Corinne Malletさんとの出会い
ある夜、近くの農家でお母さんが民宿を経営している友人より電話があり、「外人が泊まっているが、言葉がわからないので助けてくれ」とのことで、さっそく妻と二人ででかけてみました(私は英語がまったくわかりませんが、妻は少し話せるようです)。フランスから来た女性で、日本にアジサイを調べにきたが、どこに行ったら見れるか教えて欲しいとの話でした。伊豆に来たからには、ガクアジサイを見たいのだなと思い、また、自生地だけを教えても変った花は見つけられないことがわかっていましたので、次の日に私が案内することに決めました。
全長6kmの予定で朝出発し、自生地の様子や変った花を見てもらいました。何度も野生のガクアジサイですか、と質問された姿を印象深く思い出します。この日は彼女の体調が思わしくなく、途中で帰宅し、我が家に植えたガクアジサイを見ていただきました。
次の年にも彼女がご主人と共に来日した時には、反対側より海岸に入り、少し詳しく見ていただきました。この時は、まだ城ヶ崎やヤマトアジサイが枯れる前で、それらが野生で育っていた姿をみることの出来た数少ない一人です。
この時に持ち帰った枝は、城ヶ崎・伊豆の華・シャムロック・ヤマトアジサイ・飯田宅の生垣から白花(ヤマアジサイ?)など。
磯万度(いそまんど):ガクアジサイのテマリ咲き、平澤哲発見、2009年に命名
ヤマトアジサイより女性的な花型のテマリ咲き。段咲きになりやす縦長に咲くことがある。大きく咲く花は4〜5個の花房が合わさった形となりやすい。城ヶ崎海岸のアジサイとしては早咲き。ヒメアジサイと似ており、その影響を受けている可能性が大きい。
ヤマトアジサイ発見の翌年、400m南西側で3株のテマリ咲きを見つけた。それらの真ん中の株で、最も個性のある花です。
また、近くの岩からいくつかの実生が生え、その中からテマリ咲きも見つかっています。
2009年に「磯万度」と命名。
日本あじさい協会会報第22号(2009年9月)、アジサイ百科(川島榮生著、2010年6月)に掲載
磯の滝(いその滝):ガクアジサイの絞り咲き、平澤哲発見、2009年に命名
磯しぶきより小型、ガク片に1〜2本の白線が入る。
城ヶ崎海岸の海に落ちる滝から名づける。
2009年に「磯の滝」と命名。
日本あじさい協会会報第22号(2009年9月)、アジサイ百科(川島榮生著、2010年6月)に掲載
上記のうち伊豆の華と城ヶ崎・Shamrockは、日本・アメリカ・ヨーロッパで栽培され、海外の専門書等にも写真つきで紹介されています。
ヤマトアジサイ(別名:古代紫)は、2009年に国内で販売が始まり、海外の本でも紹介されました。

城ヶ崎海岸は富戸(ふと)〜八幡野(やわたの)〜赤沢(あかざわ)の3集落にわたり続いています。
八幡野以外でもいくつかの変わったアジサイを見ています。

”伊豆の華”、”城ヶ崎”が自生していた八幡野城ヶ崎海岸の航空写真
右の写真の中に、伊豆の華と城ヶ崎が自生していました。

「伊豆の華」は切り立った岩場の上の低い常緑樹の根元に、そして数10センチ海よりの場所にと、2株が並んでいます。生育環境が厳しい場所なので、「城ヶ崎」より背が低く、厚葉でした。いまでも、10数年前と同じ大きさで、元気に花を咲かせています。

「城ヶ崎」は、写真中央より少し右上の谷(暗い線状)の林の中で2メートル以上の高い株でした。発見当時は、近くに松の大木があり、その下は大きな木が育ちませんでしたので、結構明るかったのです。今は松が枯れ、周囲の木が大きくなり周りを覆ったために、「城ヶ崎」も周りのアジサイと一緒に枯れてしまいました。

城ヶ崎海岸はリアス式と言われることが多いのですが、実際は溶岩が波に浸食された海岸です。今でも侵食が続いており、大きな岩が落ちている場所もたくさん見ることができます。

保護が必要な特別重要な地域 − 世界の宝として −
城ヶ崎海岸の中で、最も多彩なガクアジサイが自生する特異的な地域があります。直線で1kmの範囲に、質のすばらしい八重花とテマリ咲きのガクアジサイを多数産出し世に送り出している、世界でも唯一の地域です。
すでに、「城ヶ崎」と「ヤマトアジサイ」は周囲の木が大きく広がったことにより、日が入らなくなり枯れてしまいました。他の貴重なアジサイも同様の危険があるのですが、数年前より個人的に管理して日が射すように気を配っています。
この周辺は国立公園第一種地区なので人の手が入らないように保護されていますが、アジサイの場合は手をかけて日が当たる環境を維持しないと枯れてしまいます。毎年見回りをして管理することにより株を維持し、また新たな実生も生えてくると思います。

野生種は、大切な遺伝子資源としてこれから重要性が増してきます。丈夫で単純な遺伝子が、交配を繰り返し作られてきた弱い園芸品種をよみがえらせることもできます。

ガクアジサイ専門の保護監視委員のような人材をつくり、管理させてはいかがでしょうか!

八幡野は − 世界のアジサイのふるさと −
世界中で栽培される西洋あじさいは、日本で栽培されていたあじさいがヨーロッパに渡り、それを交配親として育成されたものです。日本で古くから栽培されていたいた品種にホンアジサイがありますが、色彩からみて伊豆半島の東海岸のアジサイに似、そして見つかっているものの中で一番近いアジサイが八幡野で発見されたテマリ咲きのアジサイです。そして、現在でも八幡野で発見されたアジサイがヨーロッパやアメリカで栽培されています。

アジサイが咲く頃になると、何度か近くの城ヶ崎海岸を歩いてみます。その中で見ることのできたガクアジサイが、海外の庭で同じ花を咲かせていることを思うと、ここが「世界のアジサイのふる里」であることを感じます。そして、いつまでも自然の中で育つアジサイの姿を見ることのできる、このふる里が続くことを願っています。

アジサイの保護
城ヶ崎海岸のガクアジサイの自生地は、幸にも国立公園第一種の中です。現在は松くい虫やロッククライミングの害を除けば、大切に保護されています。アジサイにとって最大の困難は、枯れた松の周囲が常緑樹で覆われ、日照不足となり枯れてしまうことです。ここ十数年の間に何ヶ所もの谷からアジサイが消えていきました。
三年に一度でも下刈りを行えば良いのですが、アジサイのことだけ考えるわけにもいきません。それでも、貴重なアジサイの周囲だけでも人の手を入れ、枯れるのを防ぎたいものです。

世界初の自生ガクアジサイ園を!
アジサイの咲く梅雨の頃は、観光客が最も少ない時期の一つです。近年は、アジサイを誘客の手段として活かそうとの試みで、各地でアジサイ祭り・歩道作り、遊園地やお寺ででアジサイ展が開催されています。岐阜県のあるお寺では、広くない境内のあちこちにヤマアジサイを植え、あじさい寺ということで一般客の他に一日に何台もの観光バスがやってきます。豊島園で開催された2008年のアジサイ展は、伊豆で発見されたアジサイを中心に展示されていました。
有名な鎌倉や下田は、園芸種が主に植えられています。もし、八幡野で城ヶ崎海岸の様々なアジサイ全てが見られるとしたらどうでしょう。世界最初の自生ガクアジサイ園として、一般の観光客の他に多くの植物愛好家にも受け入れられるのではないでしょうか。可能であるならば、地域全体の道端に植え、町を散策しながら自然にアジサイを見ることができたら素敵だと思います。

自生地の写真
伊豆半島のアジサイ
自生地の写真
城ヶ崎海岸のガクアジサイ
伊豆高原花の公園
アジサイコレクション
利用に関して
農家・育種家の皆様へ
神奈川県西部のアジサイ
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413-0232 静岡県伊東市八幡野1156  E−mail:izu@izu.fm  Fax:0557−54−1478
電話でのお問い合わせは、伊豆オルゴール館(0557−53−0900)の平澤 哲(ひらさわてつ)まで